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東京高等裁判所 平成10年(ネ)3495号 判決 1999年3月25日

東京都渋谷区代々木二丁目七番八号

控訴人

株式会社ヘルスロード

右代表者代表取締役

足立和子

東京都世田谷区赤堤四丁目三二番一七号

控訴人

足立和子

右両名訴訟代理人弁護士

三木祥史

金野志保

東京都中央区日本橋三丁目三番一一号

被控訴人

ビューティサポー株式会社

右代表者代表取締役

高橋八重子

東京都港区三田二丁目三番三四-一九〇一号

被控訴人

高橋八重子

右両名訴訟代理人弁護士

西本克命

桂秀次郎

本田兆司

下山博造

石川道夫

石井光穂

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人らは、控訴人足立和子に対し、連帯して金三九〇〇万円及びこれに対する平成四年一〇月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被控訴人らは、控訴人株式会社ヘルスロードに対し、連帯して金二〇〇〇万円及びこれに対する平成四年一〇月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被控訴人高橋八重子は、原判決別紙著作物目録一1及び2の著作物を出版、頒布してはならない。

五  被控訴人ビューティサポー株式会社は、原判決別紙著作物目録一1及び2の著作物を頒布してはならない。

六  被控訴人ビューティサポー株式会社は、原判決別紙著作物目録一3の著作物を出版してはならない。

七  被控訴人ビューティサポー株式会社は、所持する原判決別紙著作物目録一3の著作物を廃棄せよ。

八  被控訴人らは、原判決別紙原告主張美容法目録記載の美容法が、被控訴人高橋八重子が独自に開発した美容法であるとの趣旨の告知をし、又はその趣旨を記載した文書を流布してはならない。

九  被控訴人らは、控訴人足立和子に対し、原判決別紙謝罪広告目録記載一1の謝罪広告を、控訴人株式会社ヘルスロードに対し同目録記載一2の謝罪広告を、控訴人らに対し同目録一3記載の謝罪広告を、いずれも同目録二の要領でせよ。

一〇  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

一一  二項及び三項につき仮執行宣言

第二  事実関係

原判決の「第二 請求原因」及び「第三 請求原因に対する認否」(原判決五頁二行ないし二五頁二行)に記載のとおりである。

第三  当裁判所の判断

当裁判所も、被控訴人らの著作権侵害、誹謗行為、虚偽事実告知・流布行為をいう控訴人らの主張はいずれも理由がないと判断するものであるが、その理由は、一項のとおり原判決に付加、訂正、削除を行い、二項のとおり当審における控訴人らの主張に対する判断を加えるほか、原判決の理由(二五頁四行ないし一四五頁一行)に記載のとおりである。

一  原判決の付加、訂正、削除

1  原判決三二頁六行の「うぶ毛を」の次の「を」を削る。

2  同三八頁七行の次に、改行して、「パッティング美容法は、筋肉の流れに逆らわず皮膚機能を活発にする働きのある美容法である。」を加える。

3  同四五頁四行の「素顔」を「素肌」に改める。

4  同五〇頁七行の「類」を「頬」に改めで。

5  同五七頁九行の「手穴」を「毛穴」に改める。

6  同五九頁三行の「日本女」を「日本女性」に改める。

7  同六七頁三行、六八頁五行の各「洗い続ける美容法」を「洗い続ける素肌美容法」に改める。

8  同六九頁二行の「外気に当たっても」を「直接外気に当たって」に改める。

9  同七三頁一〇行の「アルコール人り」を「アルコール入り」に改める。

10  同七六頁六行の「甲九」を「甲一〇」に改める。

11  同七七頁七行、七八頁七行の各「お肌には」を「お肌にとって」に改める。

12  同九一頁三行の「甲一〇」を「甲一一」に改める。

13  同九二頁八行の「原告被告1、2」を「原告著作物1、2」に改める。

14  同九三頁九行の「シミはどうしてできるか」を「シミはどうしてできるのか」に改める。

15  同九四頁八行の「お肌には」を「お肌にとって」に改める。

16  同一一八頁一〇行、一一行の各「後藤」を「後東」に改める。

17  同一二五頁七行の「右発言に続く」の次に「司会者の発言」を加え、同頁八行の冒頭「ちを」の次に「推測して司会者が」を加える。

18  同一二九頁三行ないし五行を削る。

19  同一三一頁九行ないし一三六頁一〇行を次のとおり改める。

「(三) 以上からすると、原判決別紙被告広告目録五及び同六記載の文章に記載されている美容法は、多くの点で被控訴人高橋が控訴人足立の美容法から学んだものであるが、前示のとおり、控訴人足立が最も重視しているパッティングを必ずしも勧めておらず、洗顔に際してスキンフレッシャーのような道具の使用も勧めていない点で控訴人足立の美容法と異なっており、被控訴人高橋の経験及び考え方による部分も含まれているものである。

(四) ところで、本件で問題となっているような美容法も、一般的にはそれまでに知られていた美容法や知識に考案者が研究した内容を加えたり変更をし、一体として統一的な方法として成立するものであることは明らかである。

現に、控訴人足立の美容法の内容においても、前記認定のとおり(原判決理由第二の三1(二)及び(四)、七九頁一〇行ないし八〇頁一行及び八六頁一〇行ないし八七頁二行参照)、洗顔をして化粧品を洗い落とし、肌に水分を与えるという美容法や、化粧品を塗って日光に当たると、化粧品中の油分と日光の紫外線によって油焼けを起こし、それがシミの原因になるということは、控訴人足立がその美容法を提唱する前から知られていたことであり、また、乙第一七号証によれば、顔の筋肉の流れに逆らったマッサージがシワの原因になることも以前から知られていたことが認められる。さらに、被控訴人高橋の美容法もこれらの既知の美容法や知識を取り入れていることが明らかであで。

したがって、被控訴人高橋が自分の美容法を「始めた」又は「開発した」旨を文書に掲載等したことが虚偽に当たるか否かを判断するに当たっても、被控訴人高橋の美容法を個々の要件に分解することなく、全体を一体のものとして把握して判断すべきである。

そうすると、前示のとおり、被告広告目録五及び同六記載の文章に記載された美容法は、既知の美容法や知識に基づいているほか、被控訴人高橋が控訴人足立の美容法から学んだものも多く取り入れているが、必ずしもパッティングを勧めておらず、洗顔に際して道具の使用も勧めていない点で控訴人足立の美容法と異なっているものであり、被控訴人高橋自身の経験に基づく部分もあるから、被控訴人高橋がそのような美容法を「始めた」又は「開発した」旨を文書に掲載等したことが、虚偽の事実を流布したものであでと認めることはできない。」

20  同一三七頁七行、一三八頁一行の各「後藤」を「後東」に改める。

二  当審における控訴人らの主張に対する判断

1  翻案権侵害等について

(一) 控訴人らは、原判決は原告著作物における表現形式上の本質的特徴を被告著作物から直接感得することができることが必要であるとの判断基準を採用しているが、翻案権侵害の有無を判断するに当たっては、著作物の形式であるか内容であるかを問わず、著作者の独創的な個性が現れている部分が抵触しているか否かを検討すべきである、例えば、皮膚の構造、皮脂の役割、当時の多くの化粧品は鉱物油から作られていたこと、鉱物油が日光に当たると油焼けを起こすこと等は素材であるが、シミは右油焼けが積み重なってできること、マッサージは鉱物油を毛穴の奥深くまで塗り込み、皮脂の分泌を妨げること、マッサージに代わってパッティングがよいこと等は控訴人足立のアイデアであり、控訴人足立はこれらの素材と控訴人足立独自のアイデアを組み合わせ、皮脂の役割、シミのできる原因等を分析した上、従来のマッサージ美容法の害を説き、パッティング美容法を推奨するという独自の思想体系を構築し、これを原告著作物に著したものであり、したがって、この思想体系自体が著作権によって保護されるべきである旨主張する。

しかしながら、従来のマッサージ美容法は害があり、パッティング美容法が望ましいという考え方ないし思想体系それ自体は、一種の見解として著作権法上の保護を当然には受けることができないものである。ただ、同じく従来のマッサージ美容法には害があり、パッティング美容法が望ましいことを説く場合であっても、そのことの説明又は論証のために、どのような素材・事実等を選び、どの程度の量で、どの素材と組み合わせ、どう配列するかなどの点については、著作者独自の個性ないし創作性を認めることができるものもあり得る。したがって、被告著作物が、原告著作物と表現において同一でなくても、原告著作物に依拠していることが明らかであって、原告著作物に表現されている右のような著作者独自の個性ないし創作性を直接感得させるものであれば、翻案権の侵害となり得る場合があり、この点の判断に必要な限度で、説明又は論証のために記載されている素材・事実の内容の異同や配列等が考慮されるが、これらを離れて美容に関する控訴人足立の考え方や思想体系そのものが著作権法上当然に保護されるものではない。

そして、原判決は、原告著作物と表現において同一とはいえない被告著作物が原告著作物を翻案したものといえるためには、被告著作物の著作者が原告著作物に依拠して著作し、かつ原告著作物における表現形式上の本質的特徴を被告著作物から直接感得することができることが必要であるとした上、両著作物を比較対照し、全体の構成、各項目の表題、配列、各項目の取り上げ方、叙述の順序、論理の流れ、文言等の具体的な表現を詳細に検討しているのであって、原判決も、右に説示した判断基準に従って翻案権侵害の判断を行っているものと認められるから、原判決の判断には基本的な判断基準に誤りがある旨の控訴人らの主張は採用することができない。

(二) 控訴人らは、被告著作物1ないし4が原告著作物の翻案権等侵害に当たらない旨の原判決の具体的判断が誤りであるとして種々主張するが、この点についての原判決の具体的判断にも誤りはなく、控訴人らの右主張は理由がない。

2  誹謗行為について

控訴人らは、原判決の誹謗行為の点についての判断につき、被告広告一の中で「笹の葉化粧品」と名指ししたことには、単なる被控訴人高橋の商品を開発するに至る経緯を述べる以上の意図があったことは明らかであり、また、控訴人会社の化粧品に納得できない旨の記載を読む一般の読者は、具体的事実が摘示されていない場合でも、控訴人会社の化粧品に何らかの問題があるとの印象を持つに至るものであるから、誹謗に当たらない旨の原判決の判断は誤りである旨主張する。

しかしながら、原判決は、被控訴人高橋の発言がされた状況やそれが主観的感想であって具体的事実の摘示を含意すると認めることはできないことなどを総合的に認定判断し、被告広告一が控訴人会社らを違法に誹謗するものであるとまで解することはできない旨判断しているところ(原判決一二四頁三行ないし一二六頁二行)、その認定、判断に誤りはないから、この点の控訴人らの主張は理由がない。

3  虚偽事実告知・流布行為について

(一) 控訴人らは、原判決が原判決別紙被告広告目録二ないし四に記載された文章は美容法の具体的内容について記載していないから、右文章の趣旨が甲美容法は被控訴人高橋が独自に開発した美容法であることを述べたものとは認められないと認定、判断した点につき、顧客にとっては、被控訴人高橋の美容法が何であるかを後で説明を受ける等して容易に認識できるものであり、被告広告目録二ないし四とその後の具体的な説明内容を一体としてみれば、甲美容法が被控訴人高橋が独自に開発した美容法であるとの趣旨を記載した文書の流布に当たる旨主張するが、仮に、被告広告目録二ないし四とその後の被控訴人高橋の美容法についての説明を一体として見たとしても、その説明内容は、前記説示の被告広告目録五及び同六記載の文章に記載された美容法と同様に、必ずしもパッティングを勧めておらず、洗顔に際して道具の使用も勧めていない点で控訴人足立の美容法と異なっているものと認められるから、被控訴人高橋がそのような自己の美容法を「全く新しい」等と記載したとしても、虚偽の事実を流布したものであると認めることはできない。したがって、控訴人らの右主張は、結局理由がない。

(二) 控訴人らは、被告広告目録五及び同六記載の文章に記載された美容法は、美容法、美容理論全体としてみれば、控訴人足立が提唱している甲美容法と実質的に同一であり、被控訴人高橋が右の美容法を独自に開発したということと、甲美容法は控訴人足立が独自に開発したということとは全く相容れない旨主張するが、被告広告目録五及び同六記載の文章に記載された被控訴人高橋の美容法が必ずしもパッティングを勧めておらず、洗顔に際して道具の使用も勧めていない点で控訴人足立の提唱する甲美容法と異なっていることは、前記説示のとおりであり、このような相違点のある両者の美容法を実質的に同一であると認めることはできないから、控訴人らの右主張は理由がない。

(三) 控訴人らは、被控訴人高橋らはその美容説明会において、控訴人足立の提唱する甲美容法を、控訴人足立の下でその美容法を学んだという事実を述べることなく、真実は他人が研究開発した美容法を受け売りしているにもかかわらず、自ら研究開発したものと宣伝しているものであって、その体験の内容を偽るものである旨主張する。しかし、被控訴人高橋らが美容説明会において説明している内容が、必ずしもパッティングを勧めておらず、洗顔に際して道具の使用も勧めていない点で控訴人足立が提唱している甲美容法とは異なっていることは、原判決の認定するとおりであるから(原判決一四三頁三行ないし七行)、その美容法を自ら研究開発した旨の宣伝が誇大な面があるとしても、被控訴人高橋らが控訴人足立の下でその美容法を学んだことを述べていないことをもって、被控訴人高橋らの美容説明会における説明が全体として虚偽の事実の告知となるとまで認めることはできない。したがって、控訴人らの右主張は理由がない。

第四  結論

以上によれば、控訴人らの請求はいずれも棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとする。

(口頭弁論終結の日 平成一一年二月四日)

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)

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